2012年 10月 08日
【第一弾】ゲスト:佐々木透氏(リクウズルーム主宰) 後半 |
―書けなくなるんじゃないかっていう恐怖
佐々木 最初に僕が田川くんの芝居を見たときにブレヒトみたいだねっていう話をしたっていうのは、アレはどうなんですかね?まぁ、田川君、ブレヒトをあんまりよく知らないんですってその当時言ってたじゃないですか。
田川 そのあとブレヒト読みました。
佐々木 だから、そのブレヒトから感じるところとかあったんですか?今はそういう、いわゆる異化みたいなのは持ち込んでないみたいだけど。
田川 そうですね。自分が、構造的なことをやろうと思っていた時期があって、今より前に。それで書けなくなっちゃったりとか。俺、そういう人じゃねぇみたいな。で、書けなくなっちゃうくらいだったら得意な方を伸ばしていったほうがいいなと思いながらも、
佐々木 難しいところですな。
田川 えぇ。得意な方のところでも今度は行き詰まりを感じてきたから何かやらきゃいけないけど、それに対する恐れみたいのもあって。
佐々木 それに対する恐れっていうのはやったことがないからっていうことなのか、書けなくなるんじゃないかっていう?
田川 そうです。書けなくなるんじゃないかって。
佐々木 でもさ、書くっていうことに一つ。書けなきゃ演出すればいいって考える人も演出する人の中にはいるでしょう。でも、書くことしか出来ない人は書けなくなることを恐れて、そこに飛び込まないっていうのはアレなんじゃないですか?っていうプレッシャーもちょっとかけてみますけども。だから、人間バラ屋敷は特に落語のわかりやすい構造をやってくれたらすごい見たかったなっていう。できなくても別に良くて。まぁ、良くはないけど、何かやろうとしたんだっていうのは、例えば、水素を好きな人っていうのがそれをちゃんと嗅ぎ分けると思うしね。そこに観客との対話が生まれると思うから。前回のは落ちてたんだけど…、いつもの田川君の戯曲にしては落ちてましたけど、落語のオチってすごい切れ味じゃない。例えば、変な話、落語のオチってカットアウトなんですよ。照明とかもそのオチを言ったら落ちるんですよ。これはビジュアルの演出になっちゃうけどフェードアウトではありえないと思うんですよ、ほとんど。まぁ、そういうのもたまにはあると思うけど、落語もたくさんあるから。でも、ほとんどが、お客さんもそれ知ってて、落ちたらすぐ拍手じゃん。それを知らない人だってわかって盛り上がるくらいだから。たぶんカットアウトだと思うんだよね性質としては。
田川 俺もあとから他の作り方の可能性を夢想したりしてすごい反省が残りましたね。
佐々木 でも、落語の持つ性質みたいなのと田川君の持ってるものの親和性はかなりあると思うけど。だから、嫌だとは言ってたけど、でもすごく合ってたからアレは落語の世界だなと。アレを観て、すごい落語のことに思い馳せてるなって思いましたし。だから、そのことが欲張ちゃって、構造がアレだったんだけど(笑) 今思ってるのってそこじゃない。結果的に今のテーマの肝になっているというか。
田川 まず、前に謎の球体Xやった時に、台本書くとき、ポストモダン小説みたいな構造的に変なものにハマってて、これ演劇に持ち込めないかなって思ってて、でも、自分の中では納得いく形で台本に落とし込めなくて。その感じも後遺症としてまだ残ってるんですよ。
佐々木 謎の球体Xはね、僕の理解力がないのか、タイトルと作品がどう円環しているのかがわからなくて。
田川 僕らが知らないことだらけじゃないですかこの世界って。それが怖いっていうのがあって。地球のことも人間のことも、何も知らないし、
佐々木 あ、そんな壮大だったんだ。
田川 自分が何のために生まれたかとかって、誰にも答えられないじゃないですか。その質問に答えをつけようとせずにどう引き受けられるかみたいなことを考えてたんですよね。
佐々木 でも、わからないとは言ったけど、謎の球体Xっていう表題はとても素敵なタイトルだと思って。
田川 バラバラ姉妹に憐れみを、は?
佐々木 前が人間バラ屋敷で、またバラがついちゃってるからバラ好きなのかなっていうっていう感じになっちゃって。バラ違いですけど。でも、もう決まったんでしょ?それはしょうがない。
田川 しょうがないって何ですか(笑)
佐々木 それはもう決まったものは決まったものとして。次回の作品として、バラバラな姉妹たちの憐れみ。
田川 まぁ、そういうことです(笑)
佐々木 バラバラな姉妹たちを憐れんでねってことですか?
田川 そうです。そのままです。
佐々木 やっぱり田川君の、まぁ、バラバラ姉妹っていうので、僕は水素を、その前身も含めて見てきて、すごくいろんな積み重ねの中からバラバラ姉妹っていうタイトルから想像できることは色々あって、勝手にあぁなるのかな、こうなるのかなって想像するんですけど。で、ほかにもそれをやる人たちがいると思うんですよ。もっと俺に刺激を!って言ってる人達は、あの、特にこのバラバラ姉妹っていうところがミソだと思うんだけど。これで田川君の得意なところって想起しやすいと思うんですよ。それをどうにかしてサプライズに転じたいわけですよね。それが田川君的には構造なんじゃないかと。そういうことですよね。
田川 まぁ、失敗しないように頑張ります。
佐々木 まぁ、虎穴にいらずんばってやつですよ。あるものを獲得しようとしたらある程度のリスクは負わないと。石橋叩いて渡るわけにもいかないし。
―部屋から出ればいいんじゃない?
田川 人間バラ屋敷が本番の2週間前くらいには書けてて。まぁ、出てくれる俳優さんからしたら遅い方なんですけど、俺からしたら結構早くて。なんかすんなり書けたなみたいな感じがあって。苦しさみたいなことはいつもの10分の1くらいだったんですよ。
佐々木 でも、それに伴う傷みたいなのはあったんですか?
田川 まぁ、反省はいつもあって。みんなそうだと思うんですけど、関わってくれた人たちに対するありがとうって気持ちはありながらも、これで良かったよねって感じにはならなくて、悔しい気持ちは残ってて。だからすぐ11月にできるのはちょうど良かったなって思って。
佐々木 でも、満足することはないんじゃないですか?
田川 今、自分の欲望として作り方を変えたいっていうのが出てきたのが良くて。誰かの欲望として変わったほうがいいとか、潜在的な観客の欲望に合わせていくのすごい嫌だなと思って。
佐々木 それする必要はないと思うのね。ただ自分の作品を考える契機になるのはそういう声だと思うから。歩み寄りというか、やりたくないことをやるんではなくて、ただ迎合するのと、自分の作品を考えるのは全然違うことだから。
田川 だって線引きが難しくないですか?
佐々木 難しい。それは難しいよ。だから、田川君もそこは迎合として捉えるのではなくて自分の作品を考える契機にすればいいというだけのことであって、誰かの欲望に合わせるつもりはないと思うし、自分が本当に見たい物っていうのを追求すればいい。
田川 難しいですよね。他人の欲望っていつの間にか自分の欲望になっちゃってたりとかするじゃないですか。本当に見たいのか見せられてるのかがわからなくなっちゃうところがちょっとあって。
佐々木 それってでも人間に対して色々思い馳せてる人ならではの感性だね、それって。自然を相手にしてたらそういうのはあんまりないと思う。
田川 俺、自然が好きじゃないんですよね。
佐々木 僕も全然自然好きじゃないと思ってたけど。でも、自然を前にするとどうにもならない。例えば、雨降って寒くってもどうしようもできないから。雨降ったら傘ささなきゃならないし、自分の思う通りにできないじゃん。地震だってそうだけど。無力だなみたいな。
田川 よくモンゴルの地平線とか見ると人間ってちっぽけだよね、俺の悩みなんかちっぽけだよねみたいなの言う人いるじゃないですか。でも、俺が地平線見たら、俺の悩みはモンゴルの地平線よりもデカイ、なんてデカイ悩みなんだって思える自分でいたいんですよ。
佐々木 僕はちなみに見たら、ちっぽけだなって思う人間なんですよ。だから普通なんですけど。モンゴルの草原よりデカイって思えるだけ自分を過大評価してない(笑) それが面白くて僕は田川君が好きなんですよ。そんなはずないって思って。そんなはずないって思ってるけど、でも、内容聞いてるとやっぱりそんなこともないんだけど、それをそう思ってるところがすごい面白いなって。
田川 旅行者が悩みなんて忘れちゃうよね、なんて言っても、モンゴルの人たち些細な浮気問題とかで悩んでると思うんですよ。
佐々木 モンゴルの人たち(笑)
田川 じゃあそこに住んでるやつ誰も悩んでねぇのかよ!って。絶対何か些細なことで自殺しちゃったりとかしてると思うんですよ。
佐々木 そうね、すごいしょうもないことで悩んでるかもしれないよね。あ!でも、そういうのいいじゃん。何か象徴的なものがあって、他の人たちはその象徴的なものに目がいくのに、そこにいる人たちはいかないみたいな。シンボリックなものを必ず置くとか。シンボリックなものってそれだけで構造的だったりするから。
田川 星とかですか?
佐々木 星? まぁ、星でもいいけど。宗教でもそれこそいいし。必ずそういう構造的に言及しようとする姿勢というか。今までは対象が人間の心理が割と主になってるけど、それを人間の価値判断でどうにでもなるような無機物みたいなものを持ち込むことで、例えば、エアーズロックとかモンゴルの地平線とか、はっきり言ってモンゴルの地平線自体は何も持ってないじゃん、モンゴルの地平線に意識があるわけないから。モンゴルの地平線に対して、悩みなんて吹き飛んじゃうねっていうのは、人間の価値判断だから。いやいや、モンゴルに住んでる人は些細なことで悩んでるっていうズレが面白いわけだから。モンゴルの地平線出すとか、ここはモンゴルの地平線で描かれてますとか。今田川君の芝居の舞台は部屋が多いじゃない。
田川 部屋が多いです。
佐々木 部屋から出ればいいんじゃない?
田川 確かにそれはちょっと挑戦ですね。
佐々木 部屋から出て、ここはエアーズロックの些細なコミュニティだっていうところで。別に誰が住んでたっていいじゃん、そんなのは作家の裁量で。そういうのが話聞いててどんどん膨らむんですけど。田川ワールドが。
田川 たがワールド。
佐々木 たがワールド(笑) それ面白そうだなって単純に。ちょっと部屋から出ましょうよ。
田川 でも、俺部屋以外って書いたことない気がしますね。
佐々木 だから、部屋が構造になるなんて大間違いで。
田川 確かに。例えば、平田オリザさんだったら美術館の待合室が舞台になってるじゃないですか。あぁいうところって他人もいるから。俺の作品って言っちゃいけないことも言うじゃないですか、人が聞いてたらまずい「殺すぞ」とか。そういうのってセミパブリックとか言われる空間だと言いづらいなぁと思って。俺書いたことないからわかんないけど。
佐々木 でも、エアーズロックとかモンゴルって開けてるだけで、実はすごい閉じられたコミュニティかもしれないし。部屋だから閉じられてるってことじゃなくて、例えば、山ってある種の密室で、そこで起こった事故に対してはどうすることもできなかったり。滑落なのか、殺人なのかなんてわかんないし。
田川 そうですね。開けた場で吐く暴言とか暴力とか。
佐々木 あるでしょう、そんなのいっぱい。
田川 無差別殺人とかありますもんね。
佐々木 大好きでしょ、そういうの。
田川 まぁ(笑) 事象としては憎んでますよもちろん。
佐々木 憎んでもらって良かったです(笑)
田川 でも、どうしよう蓋開けてみたら結局部屋でみたいなのだったら。
佐々木 いやいや、こういう会話をして、やっぱり俺部屋にしたいですだったらいいんじゃないの。
田川 小説とかって、最初、誰々に捧ぐとか書いてるじゃないですか。そうしたら台本の頭に佐々木さんごめんなさいって書きます(笑)
―終2012.9.3
佐々木透氏(リクウズルーム主宰)
2001年~2005年、ク・ナウカ シアターカンパニーにて
『佐々木リクウ』の名で俳優として活動。退団後は執筆を中心としたソロ活動に入る。
2007年12月、ソロユニット「リクウズルーム」を開始。
リクウズルーム公式HP⇒ http://reqoo-zoo-room.jp/
*****
佐々木 最初に僕が田川くんの芝居を見たときにブレヒトみたいだねっていう話をしたっていうのは、アレはどうなんですかね?まぁ、田川君、ブレヒトをあんまりよく知らないんですってその当時言ってたじゃないですか。
田川 そのあとブレヒト読みました。
佐々木 だから、そのブレヒトから感じるところとかあったんですか?今はそういう、いわゆる異化みたいなのは持ち込んでないみたいだけど。
田川 そうですね。自分が、構造的なことをやろうと思っていた時期があって、今より前に。それで書けなくなっちゃったりとか。俺、そういう人じゃねぇみたいな。で、書けなくなっちゃうくらいだったら得意な方を伸ばしていったほうがいいなと思いながらも、
佐々木 難しいところですな。
田川 えぇ。得意な方のところでも今度は行き詰まりを感じてきたから何かやらきゃいけないけど、それに対する恐れみたいのもあって。
佐々木 それに対する恐れっていうのはやったことがないからっていうことなのか、書けなくなるんじゃないかっていう?
田川 そうです。書けなくなるんじゃないかって。
佐々木 でもさ、書くっていうことに一つ。書けなきゃ演出すればいいって考える人も演出する人の中にはいるでしょう。でも、書くことしか出来ない人は書けなくなることを恐れて、そこに飛び込まないっていうのはアレなんじゃないですか?っていうプレッシャーもちょっとかけてみますけども。だから、人間バラ屋敷は特に落語のわかりやすい構造をやってくれたらすごい見たかったなっていう。できなくても別に良くて。まぁ、良くはないけど、何かやろうとしたんだっていうのは、例えば、水素を好きな人っていうのがそれをちゃんと嗅ぎ分けると思うしね。そこに観客との対話が生まれると思うから。前回のは落ちてたんだけど…、いつもの田川君の戯曲にしては落ちてましたけど、落語のオチってすごい切れ味じゃない。例えば、変な話、落語のオチってカットアウトなんですよ。照明とかもそのオチを言ったら落ちるんですよ。これはビジュアルの演出になっちゃうけどフェードアウトではありえないと思うんですよ、ほとんど。まぁ、そういうのもたまにはあると思うけど、落語もたくさんあるから。でも、ほとんどが、お客さんもそれ知ってて、落ちたらすぐ拍手じゃん。それを知らない人だってわかって盛り上がるくらいだから。たぶんカットアウトだと思うんだよね性質としては。
田川 俺もあとから他の作り方の可能性を夢想したりしてすごい反省が残りましたね。
佐々木 でも、落語の持つ性質みたいなのと田川君の持ってるものの親和性はかなりあると思うけど。だから、嫌だとは言ってたけど、でもすごく合ってたからアレは落語の世界だなと。アレを観て、すごい落語のことに思い馳せてるなって思いましたし。だから、そのことが欲張ちゃって、構造がアレだったんだけど(笑) 今思ってるのってそこじゃない。結果的に今のテーマの肝になっているというか。
田川 まず、前に謎の球体Xやった時に、台本書くとき、ポストモダン小説みたいな構造的に変なものにハマってて、これ演劇に持ち込めないかなって思ってて、でも、自分の中では納得いく形で台本に落とし込めなくて。その感じも後遺症としてまだ残ってるんですよ。
佐々木 謎の球体Xはね、僕の理解力がないのか、タイトルと作品がどう円環しているのかがわからなくて。
田川 僕らが知らないことだらけじゃないですかこの世界って。それが怖いっていうのがあって。地球のことも人間のことも、何も知らないし、
佐々木 あ、そんな壮大だったんだ。
田川 自分が何のために生まれたかとかって、誰にも答えられないじゃないですか。その質問に答えをつけようとせずにどう引き受けられるかみたいなことを考えてたんですよね。
佐々木 でも、わからないとは言ったけど、謎の球体Xっていう表題はとても素敵なタイトルだと思って。
田川 バラバラ姉妹に憐れみを、は?
佐々木 前が人間バラ屋敷で、またバラがついちゃってるからバラ好きなのかなっていうっていう感じになっちゃって。バラ違いですけど。でも、もう決まったんでしょ?それはしょうがない。
田川 しょうがないって何ですか(笑)
佐々木 それはもう決まったものは決まったものとして。次回の作品として、バラバラな姉妹たちの憐れみ。
田川 まぁ、そういうことです(笑)
佐々木 バラバラな姉妹たちを憐れんでねってことですか?
田川 そうです。そのままです。
佐々木 やっぱり田川君の、まぁ、バラバラ姉妹っていうので、僕は水素を、その前身も含めて見てきて、すごくいろんな積み重ねの中からバラバラ姉妹っていうタイトルから想像できることは色々あって、勝手にあぁなるのかな、こうなるのかなって想像するんですけど。で、ほかにもそれをやる人たちがいると思うんですよ。もっと俺に刺激を!って言ってる人達は、あの、特にこのバラバラ姉妹っていうところがミソだと思うんだけど。これで田川君の得意なところって想起しやすいと思うんですよ。それをどうにかしてサプライズに転じたいわけですよね。それが田川君的には構造なんじゃないかと。そういうことですよね。
田川 まぁ、失敗しないように頑張ります。
佐々木 まぁ、虎穴にいらずんばってやつですよ。あるものを獲得しようとしたらある程度のリスクは負わないと。石橋叩いて渡るわけにもいかないし。
―部屋から出ればいいんじゃない?
田川 人間バラ屋敷が本番の2週間前くらいには書けてて。まぁ、出てくれる俳優さんからしたら遅い方なんですけど、俺からしたら結構早くて。なんかすんなり書けたなみたいな感じがあって。苦しさみたいなことはいつもの10分の1くらいだったんですよ。
佐々木 でも、それに伴う傷みたいなのはあったんですか?
田川 まぁ、反省はいつもあって。みんなそうだと思うんですけど、関わってくれた人たちに対するありがとうって気持ちはありながらも、これで良かったよねって感じにはならなくて、悔しい気持ちは残ってて。だからすぐ11月にできるのはちょうど良かったなって思って。
佐々木 でも、満足することはないんじゃないですか?
田川 今、自分の欲望として作り方を変えたいっていうのが出てきたのが良くて。誰かの欲望として変わったほうがいいとか、潜在的な観客の欲望に合わせていくのすごい嫌だなと思って。
佐々木 それする必要はないと思うのね。ただ自分の作品を考える契機になるのはそういう声だと思うから。歩み寄りというか、やりたくないことをやるんではなくて、ただ迎合するのと、自分の作品を考えるのは全然違うことだから。
田川 だって線引きが難しくないですか?
佐々木 難しい。それは難しいよ。だから、田川君もそこは迎合として捉えるのではなくて自分の作品を考える契機にすればいいというだけのことであって、誰かの欲望に合わせるつもりはないと思うし、自分が本当に見たい物っていうのを追求すればいい。
田川 難しいですよね。他人の欲望っていつの間にか自分の欲望になっちゃってたりとかするじゃないですか。本当に見たいのか見せられてるのかがわからなくなっちゃうところがちょっとあって。
佐々木 それってでも人間に対して色々思い馳せてる人ならではの感性だね、それって。自然を相手にしてたらそういうのはあんまりないと思う。
田川 俺、自然が好きじゃないんですよね。
佐々木 僕も全然自然好きじゃないと思ってたけど。でも、自然を前にするとどうにもならない。例えば、雨降って寒くってもどうしようもできないから。雨降ったら傘ささなきゃならないし、自分の思う通りにできないじゃん。地震だってそうだけど。無力だなみたいな。
田川 よくモンゴルの地平線とか見ると人間ってちっぽけだよね、俺の悩みなんかちっぽけだよねみたいなの言う人いるじゃないですか。でも、俺が地平線見たら、俺の悩みはモンゴルの地平線よりもデカイ、なんてデカイ悩みなんだって思える自分でいたいんですよ。
佐々木 僕はちなみに見たら、ちっぽけだなって思う人間なんですよ。だから普通なんですけど。モンゴルの草原よりデカイって思えるだけ自分を過大評価してない(笑) それが面白くて僕は田川君が好きなんですよ。そんなはずないって思って。そんなはずないって思ってるけど、でも、内容聞いてるとやっぱりそんなこともないんだけど、それをそう思ってるところがすごい面白いなって。
田川 旅行者が悩みなんて忘れちゃうよね、なんて言っても、モンゴルの人たち些細な浮気問題とかで悩んでると思うんですよ。
佐々木 モンゴルの人たち(笑)
田川 じゃあそこに住んでるやつ誰も悩んでねぇのかよ!って。絶対何か些細なことで自殺しちゃったりとかしてると思うんですよ。
佐々木 そうね、すごいしょうもないことで悩んでるかもしれないよね。あ!でも、そういうのいいじゃん。何か象徴的なものがあって、他の人たちはその象徴的なものに目がいくのに、そこにいる人たちはいかないみたいな。シンボリックなものを必ず置くとか。シンボリックなものってそれだけで構造的だったりするから。
田川 星とかですか?
佐々木 星? まぁ、星でもいいけど。宗教でもそれこそいいし。必ずそういう構造的に言及しようとする姿勢というか。今までは対象が人間の心理が割と主になってるけど、それを人間の価値判断でどうにでもなるような無機物みたいなものを持ち込むことで、例えば、エアーズロックとかモンゴルの地平線とか、はっきり言ってモンゴルの地平線自体は何も持ってないじゃん、モンゴルの地平線に意識があるわけないから。モンゴルの地平線に対して、悩みなんて吹き飛んじゃうねっていうのは、人間の価値判断だから。いやいや、モンゴルに住んでる人は些細なことで悩んでるっていうズレが面白いわけだから。モンゴルの地平線出すとか、ここはモンゴルの地平線で描かれてますとか。今田川君の芝居の舞台は部屋が多いじゃない。
田川 部屋が多いです。
佐々木 部屋から出ればいいんじゃない?
田川 確かにそれはちょっと挑戦ですね。
佐々木 部屋から出て、ここはエアーズロックの些細なコミュニティだっていうところで。別に誰が住んでたっていいじゃん、そんなのは作家の裁量で。そういうのが話聞いててどんどん膨らむんですけど。田川ワールドが。
田川 たがワールド。
佐々木 たがワールド(笑) それ面白そうだなって単純に。ちょっと部屋から出ましょうよ。
田川 でも、俺部屋以外って書いたことない気がしますね。
佐々木 だから、部屋が構造になるなんて大間違いで。
田川 確かに。例えば、平田オリザさんだったら美術館の待合室が舞台になってるじゃないですか。あぁいうところって他人もいるから。俺の作品って言っちゃいけないことも言うじゃないですか、人が聞いてたらまずい「殺すぞ」とか。そういうのってセミパブリックとか言われる空間だと言いづらいなぁと思って。俺書いたことないからわかんないけど。
佐々木 でも、エアーズロックとかモンゴルって開けてるだけで、実はすごい閉じられたコミュニティかもしれないし。部屋だから閉じられてるってことじゃなくて、例えば、山ってある種の密室で、そこで起こった事故に対してはどうすることもできなかったり。滑落なのか、殺人なのかなんてわかんないし。
田川 そうですね。開けた場で吐く暴言とか暴力とか。
佐々木 あるでしょう、そんなのいっぱい。
田川 無差別殺人とかありますもんね。
佐々木 大好きでしょ、そういうの。
田川 まぁ(笑) 事象としては憎んでますよもちろん。
佐々木 憎んでもらって良かったです(笑)
田川 でも、どうしよう蓋開けてみたら結局部屋でみたいなのだったら。
佐々木 いやいや、こういう会話をして、やっぱり俺部屋にしたいですだったらいいんじゃないの。
田川 小説とかって、最初、誰々に捧ぐとか書いてるじゃないですか。そうしたら台本の頭に佐々木さんごめんなさいって書きます(笑)
―終2012.9.3
佐々木透氏(リクウズルーム主宰)
2001年~2005年、ク・ナウカ シアターカンパニーにて
『佐々木リクウ』の名で俳優として活動。退団後は執筆を中心としたソロ活動に入る。
2007年12月、ソロユニット「リクウズルーム」を開始。
リクウズルーム公式HP⇒ http://reqoo-zoo-room.jp/
*****
#
by hydrogen74per
| 2012-10-08 00:01
| プレパフォーマンストーク